物語はいつも日常から始まる

 7:00a.m.。iPhoneのアラームで目覚める。
 横になったまま、枕元のiPhoneを確認する。電話、メール、メッセージ、LINEともに着信なし。誰も僕には用がないようだ。
 OK、僕も君たちには用がない。利害の一致、世の中は平和だ。海の向こうでは、いつ終わるとも知れない戦争が続いているけど。

 ベッドから起きた僕が身につけているのは、UNIQLOのドライカラークルーネックTシャツとCalvin Kleinのボクサーパンツだけ。寝るときは夏も冬もこのスタイル。パジャマは着ない。寝るだけの衣服を持つのはムダだ。ミニマルじゃない。
 このスタイルの良いところは、ボトムスを穿けばそのまま出かけられるところ。実際に朝食を買いに行くこともある。汗臭いこともあるが、コンビニの店員にどう思われたところで生活に支障はない。
 色はUNIQLOもCalvin Kleinも黒。僕が所有している衣服は、すべて黒。キャップも靴も、頭の先からつま先まで、すべて黒。
 黒は唯一、全身一色でもおかしくない色だ。全身赤でも全身白でもおかしい。

 僕が住んでいるのは、都心部のアパート。広さは8畳のワンルーム。家賃は3.5万円。築30年を超えているから安い。
 もともとは最寄り駅の沿線上にある大学に通う、学生用に造られたアパートだ。しかし学生が減ったせいで、僕のような人間に回ってきた。実際に住んでいるのは、サラリーマンや水商売風の女性など、半分以上が学生ではない。
 小さな玄関を入ると、短い廊下がある。廊下の右手は小さなキッチン。小さな流しとIHコンロが一基、それに小さな冷蔵庫を置いている。一人で食べる簡単な料理なら十分だ。
 廊下の左手はトイレと風呂が一体になったユニットバス。ユニットバスを嫌がる人が多いようだが、僕は気に入っている。何と言ってもトイレ掃除と風呂掃除が同時にできるところが良い。
 8畳のフローリングには、デスクとベッドのみ。作り付けのクローゼットがあるから、それ以外の家具は必要ない。築30年超えとは言っても、リノベーションされているからキレイだ。